月夜見 “恒例の かうんとだうん”

         〜大川の向こう より

 
何だか毎年、記録更新してそうな夏の暑さで、

「そんな毎年毎年、史上最高のって記録出してたら、
 来年にはこの辺て、アフリカみたいになっちまわね?」

何でインドでもアラブでもない“アフリカ”に限定するかと言えば、
お気に入りのDVDが『ラ○オン・キング』な坊ちゃんだからで。
上手いことを言うだろと言わんばかり、
えっへんと胸を張りつつ
お見合いのように向かい合ってた扇風機の前から
こちらへと振り返って来たルフィだったのへ、

「前にも確か、言ってなかったかそれ。」

「言ってねぇもんっ。」

人を○○さんチの爺ちゃんみたいに言うなっと、
本人には悪気はなかろうが…それはそれで別の意味から失礼だろうという、
そんな歯に衣着せぬやり取りを交わすおちびさんたちが陣取っているのは、
小さいほうの坊やのおウチのお茶の間で。

「いんや、言ってたぞ。
 確か、この夏最高の気温って
 毎朝みたいに予報士のおねいさんがゆってるって言った後に、
 そんなに毎日記録突破していたら、
 1度ずつでも九月には60度突破しちまうぞって。」

「そ、そんなん昔の話だっ。/////////」

小学一年生でも、
幼稚園時代の話は立派な“昔”らしいなと。
やはり小学生だが、こちらさんはもっと昔にあたろう話を、
周囲の年上の皆様たちから最近のことのように引っ張り出されている、
坊主刈り頭の小さな剣豪。
むきになったおちびさんのお言いようへ、
いいお色に日焼けした膝小僧をほりほりと掻きつつ、
ふ〜んと感心したようなお顔をし、

 “〜〜〜〜〜。///////”

冷たい麦茶を運んで来たマキノさんが、
戸口前の廊下で立ち止まり、
必死になって笑いをこらえていたりするのも毎度のこと。
双方とも、面白いことを言い合ってるつもりは微塵もなくて。
そんな自然体の天然さだから、
余計に面白い掛け合いになっている彼らなの、
周囲の大人はほぼ全員が御存知だから。
ついつい、
そんな言い方をしてはいけませんと
当たり前に叱るタイミングを逃しておいでなのは…余談だが。

 「で? 一体どこまで進んでるんだ?」
 「んっとな、漢字のドリルは済んでんぞ?
  あと、計画ひょーのヒマワリも塗り終わってっし。」
 「待て待て待て。
  ヒマワリって、その日の予定を済ませてから塗り潰すアレだろが。」
 「おおっ!」

元気よく小さな拳を突き上げる坊やなのへ、

 「まだ10日残ってんのに、塗り潰し終えててどうすんだ。」
 「あれ?」

低学年の子らの夏休みの宿題には恒例、
日にち分の数だけ花びらのある
“ヒマワリ”が印刷されてるプリントがあって。
同じ台紙の中には1日の過ごし方を計画する円グラフ、
タイムテーブルも描けるようになっており。
それをキチンとこなせたら だいだい色、
ちょっとサボったら黄色、
全然守れなかったら赤とか緑という風に、
毎日一枚一枚塗ってゆくのだが、

 「そーだ、最初の日に塗ったんだ、俺。」
 「塗り絵じゃねぇっての。」

自分の手のひらをポンと
拳で叩いた坊やだったところでオチもつき。
ツッコミ担当の、こっちも大人からすりゃあまだまだ幼いゾロお兄さんが、
きちんと自分のお仕事をこなしつつ、

 「絵日記は?」
 「書いた!」
 「算数のドリルは?」
 「まだだっ!」
 「写生は…昨日レイリーさんチで描いてたな。」
 「おおっ! まんじゅーが美味かったぞ!」
 「読書感想文は?」
 「うっと、マンガの感想じゃあ いかんのか?」
 「いかん。」
 「………うう、じゃあまだ。」
 「えっと、後は何だっけ?」

ところどころに何だそりゃな声も挟まりつつの確認作業。
怠け者というのじゃないが、
遊びと宿題では
遊びのほうに比重も大きくかかろうこと請け合いの坊やだと、
大人じゃなくても判ろうもので。
ご家族の皆様もこちらの方向ではどこかお呑気な方ぞろい、
となると、
最終日になってから慌てた坊やが誰を頼るかは目に見えているのでと、
自分の宿題をとっとと片付けた上で、
少し早いが、忘れ物のないようにと、
1つ1つ確認に来て下さった剣豪のお兄ちゃんだったりし。

 『そういう放っとけないルフィがいたから、
  ゾロもしっかり者になれたようなもんだわね。』

 『そうそう。そういう相手がいなかったなら、
  本人が色々うっかりし倒す奴になってるって。』

姉のくいなとその親友のナミが、
こそり笑ってたのまで把握していたその上で、

 「朝顔の観察は、後は種を採る日まで もういいとして。
  じゃあ、工作済んだら算数のドリルと読書だな。」
 「おーっ!」

元気よく腕を突き上げたルフィさんだったが、

 “…あら?”

どこからか聞こえていた蝉の声が
いつの間にやら止んでおり、
さっきまでブロック塀の上にいた、
ここいらを縄張りにしている茶トラの姿も消えている。
暑さが増したのかしら? いやいや、
茶の間へ吹きいる風も、気のせいかひんやりと涼しくて。
この何日か、
猛暑酷暑の辻褄合わせかと思うくらいの急転直下で、
急な雨が降っては涼しくなるのを繰り返してもいるものだから、

 “お外へ出るようなら、傘を持たせた方がいいかしら。”

工作って言ってるからお庭先どまりかな?
そうそう、お昼には親子どんぶり作ってあげましょ。
熱いのは苦手だ〜ってめん類ばかりだったけど、
ゾロくんがいるならルフィもそういう我儘言わないでしょうしと、
ちょっぴりちゃっかりしたこと思いつつも、

 「マキノ、かまぼこ板あるか?」
 「ああ、はいはい。ちょっと待っててね。」

屈託なく訊く王子の声へ、にっこり微笑った当家の“お母さん”。
ああ、これからはこういう形で、
夏の終わりを感じることになるんだなぁと、
軒の風鈴のちりりんという響きと共に、
しみじみ実感したマキノさんだったのでありました。





  〜Fine〜  11.08.22.


  *こちらのレイリーさんは指物師ですので念のため。
   (和菓子屋の隠居なのは『残夏のころ』のほうです。)

   こちらも微妙に
   “サザエさん現象”を導入させていただいておりますので、
   いつぞや、
   夏休みの宿題をナミさんチの猫に壊された話がなかったか、
   ……なぁんてことは、言いこなしですよ?
(苦笑)


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